DUAL-RHYTHM

tears in snow

by詠月(SELENADE)







あれ?どこだったっけ?



                            あゆちゃん、こっちだよ



え?でも……



                            降りるよ



わ?



                            どうしたの?



がっこう……ボクと祐一君の学校が……



                            うん、切られちゃったんだよ……



そんなぁ……
学校で会うって約束したのに〜



                            でも、学校まで無くなったわけじゃないよ



……ホント?



                            ホントだよ、そのうち分かるよ







切り株の上に着地するボクたち



                            戻れた、やっと戻れたよ
                            ありがとう、あゆちゃん



良かったね



                            祐一君、驚くかなあ



うん!






じゃ、ボクも帰らなきゃ



                            あ、待って!



なあに?



                            これも持っていって



それは三枚の天使の羽



                            もうボクには要らないから



うん、わかったよ




手渡された羽はボクの背中に

これで五枚翼の天使だよ!






                            あゆ……ちゃん



ん?



                            これからだよ、君が頑張るのは……



まかせてよ!



                            がんばってね……



うん!でもお姉さんもがんばって!
祐一君を他のひとに取られたらやだよ。
ボクの将来はお姉さんにかかってるんだからね



                            あは、大丈夫だよ、祐一君なら……



にっこり笑う大人のボク






それじゃあバイバイ



                            うん、さようなら





・
・
・





ここかな?

あれ? また学校が無いや……



月明かりと……あたり一面の雪で、森はうっすらと輝いて

雪に覆われた切り株は地面に描いたお月様



うん? 切り株に誰かいるよ


あれは……?


祐一君だぁ!……大人の……


そばによってみよ


羽音を抑えて、そっと近づいてみる



祐一君寝ちゃってるよ……


あわわ、雪が降ってきたよ
祐一君凍えちゃうよ〜


祐一君の顔を覗き込む

「…うう……」

うわっ!?ばれた……

「…………だろ……」

なんだ、寝言だよ

「………いい天気だ……」

はあ、なにいってんだよお、ホントに
こんな真夜中に、こんな所でさ
凍えちゃうぞ



何かを祐一君は抱えている


それはリュック……
ボクが羽をくっつけた………
ホルダーには昨日埋めたばかりの、天使のお人形………


「あ…ゆ………」

約束……守ってくれたんだね……

ボクにとってはつい昨日のこと
でも祐一君にとっては、長い、長い………



ゆういちくん………



降り始めた雪に混じって……ボクの涙が二粒、三粒………

天使のお人形に………

ふりそそぐ………



一粒、天使のお人形に涙の雫が落ちるたび


ボクの翼が一枚ずつ消えていく。


僕の翼はこれでまた二枚




飛び込みたいよぉ、祐一君の胸に………
抱きしめられたいよぉ、おもいきり………


ダメ………!


祐一君はボクを待ってるんじゃない
大人のボクを待ってるんだ……から
その時まで、ボクは我慢しなくちゃ




ねえ、祐一君………

ボク、待ってるよ

君が待ってくれてるように、ずっと待ってるよ

いつか、必ず、君の前に現れるから

天使じゃない姿で、君の前に現れるから

その時は…

ずっと君のそばにいさせて

そしたら…

毎日、つくってあげるよ
クッキーを…


もちろん食べてくれるよね


ボクがんばるよ


だから…





ボクのクッキー、楽しみにしててね




・
・
・




朝が来た

祐一君が起きる

隠れなきゃ



「俺は、まだこの場所にいるんだな」



                            早く来て、大人のボク…



                            でも……

                            いくら待っても、ボクは現れない



                            祐一君は帰ろうとしない

                            切り株にもたれながら、ずっと空を見上げてる



                            もう夕方……

                            まっかな世界が祐一君を包む



                            ゆっくりと立ち上がる祐一君

                            白い息を吐きながら……



「…この街に引越してきたときも、
同じような目にあったよな」

「もっとも、あの時はベンチだったけどな…」



                            切り株の上に座りながら夕暮れを眺めている

                            そして

                            囁くように……



「…俺は、今でもお前のこと好きだぞ」



                            ゆう…いち…くん

                            ダメ、もう我慢できない…

                            伝えたい、ボクの想いを…



                「「ボクもだよ、祐一君」」





                            あれ?



「…だったら…どうして、
もう会えないなんて…言ったんだ…」



                            やっと来てくれた、待ったんだよぉ



「もう…時間が無いから…」



                            え?



「今日は、お別れを言いに来たんだよ…」



                            あきらめちゃダメだよ!



「俺は、忘れ物を届けに来たんだ」



                            祐一君が大人のボクにリュックを差し出す

                            お人形が大きく揺れて……



「…見つけて、くれたんだね」

「苦労したぞ…本当に」

「…ありがとう…」



                            リュックを受け取るボク

                            その表情は、どことなく淋しげで……



「…祐一君」



                            それでも……精一杯微笑むボク……



「遅刻だぞ、あゆ」

「今日は、日曜日だよ」

「それもそうだな」

「うん」

「でも、また会えたな」


                            これからだって会えるよ

                            いつだって一緒にいられるよ……


「うん…」
「だって、腐れ縁だもん」

「本当にこれでお別れなのか…」

「…うん」



                            違うよ!、お別れなんかじゃない!

                            あきらめないで!



「ずっと、この街にいることはできないのか?」



「………」



                            答えないボク

                            どうして?



「…うん」

「そうか…」

「…うん」

「だったら、せめて、
最後の願いを言ってからにしてくれ」



                            そうだよ!



「……」

「約束したからな。3つだけ願いを叶えるって…」

「だから、せめて…」

「俺に、最後の願いを叶えさせてくれ…」

「そう…だね…」



                            頑張って!



「お待たせしましたっ」



                            悲しげな表情が、笑顔にかわる

                            でも…その笑顔は……



「それでは、ボクの最後のお願いですっ」

「…祐一君…」
「…ボクのこと…」
「…ボクのこと、忘れてください…」



                            !!

                            どうしてぇ!



「ボクなんて、最初からいなかったんだって…」
「そう…思ってください…」





                            聞こえないの!



                            大人のボクの笑顔が崩れて
                            涙が溢れる


                            その時、ボクは見た



「ボクのこと…うぐぅ…忘…れて…」



                            大人のボクの背中の翼を……

                            ……二枚のしおれた翼を……


                            それは風が吹くたび力無くそよいで……



「本当に…それでいいのか?」
「本当にあゆの願いは俺に忘れてもらうことなのか?」



                            そんなわけないじゃないかぁ!
                            忘れて欲しくないよぉ!!



「だって…」
「ボクもうお願いなんてないもんっ」



                            嘘だ!
                            そんなの、うそだあ!!



「…本当は、もう二度と食べられないはずだった、たい焼き…」
「いっぱい食べられたもん…」
「だから…」
「だか…ら…」
「ボクのこと、忘れてください」



                            祐一君がボクを抱きしめる……

                            離さないで! ボクを

                            どこにも行かないように……




「…祐一…君…?」



                            リュックがボクの手から滑り落ちる



「……」



                            今度こそ、お願いするんだよ



「…祐一君…」



                            ボクの本当の気持ちを………









                            さぁ!




・
・
・




                    そして………


                    ボクは奇蹟を見たんだよ



                    祐一君には見えたかな?





                    大人のボクが………



                    祐一君に抱きしめられたいと………



                    祐一君に傍にいて欲しいと………



                    初めて出会ったときまで、戻りたいと



                    願うたびに…………



                    天使のお人形が翼を分けてくれるんだ。

                    一対の真っ白な翼と、一枚の虹色の翼を………



                    三枚の虹色の翼が染めていく

                    六枚の白い翼も………

                    リュックの羽も………

                    ぼろぼろの二枚の翼も………

                    輝く虹色に………



                    そうして………

                    ボクは十三枚の翼を生やした天使に

                    ………生まれ変わって………


                    彼方に飛び立っていったんだ



                    でもね…………



                    これがお別れじゃないよ、祐一君

                    必ず戻ってくるから………ボクは



                    だから……

                    待っててね、もう少しだけ




・
・
・




                    さてと、ボクも帰らなくちゃ




                    ボクは飛び立つ………


                    待っててくれる人の元に………


                    ボクの祐一君の元に………


                    そこに、どんなに苦しいことが待っていても………


                    ボクは耐えてみせる………




                    ………信じてくれた君がいるから………


                    ………ここで待ち続けてくれた君がいるから………








fin



あの『DUAL-RHYTHM』を読んで、感銘を受けて、発作的に作った続編です。
考えてから書き上げるまで大体5日くらい、
自分にしては恐ろしいほど短期間で作れました。

にもかかわらずかなりの数の伏線というか、
自分なりの解釈がこの『tears in snow』には封じ込めてあります。
そのへんを詳細に綴った解説のようなメモがありまして…
まあ、ようするにサブテキストノートのようなものですね。
『DUAL-RHYTHM』を読まれた方に
自分流解釈を押しつけてしまうことを懸念して未公開にしてましたが、
今回『DUAL-RHYTHM』、『tears in snow』の
selenadeへの掲載に合わせて公開することに致しました。

解説はこちらです。

詠月(01/03/05)


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